北千里動物病院

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更新日 2021-04-20 | 作成日 2021-04-20

歯石除去・歯周病

(犬と猫の歯周病・歯石除去・歯科処置)

北千里動物病院では、真面目に歯科診療に取り組んでおります。
動物の歯科処置は何かのついでに(去勢手術のついでに・・など)という立ち位置であったのは昔の話です。
歯石だけ超音波スケーラーでちょいちょいで、はい終わり・・は通常あり得ません。当院の統計では歯科診療の麻酔時間は2時間を超えるものが過半数を占めます。
きちんと取り組めば取り組むほど時間の要する処置が歯科診療です。
歯の確認記録(目視)からはじまり、レントゲン、歯周病のレベル判定
口腔洗浄、歯石除去、抜歯の必要な歯の抜歯(必要に応じて分割抜歯)、消毒、状況により歯槽骨切削を伴う抜歯、不良肉芽組織の除去、フィステルの確認、人工骨の埋め込み、人工コラーゲン移植、線維芽細胞成長因子の適用、歯肉フラップ作成縫合、歯周アタッチメントロス部位に対する全歯周レーザー処置(パルスレーザーによるルートプレーニング)、エプリス等のレーザー蒸散術、残存歯へのポリッシング(研磨)・・・などなど
たくさんの工程を行いながら一本一本診ていきます。

歯周病・歯石の原因

歯周病、歯石の原因は歯の表面にこびりついたプラーク(歯垢)です。
プラークは食べかすに雑菌が混ざり合った状態の糊状物で、これが
歯肉に炎症を引き起こしたり、また唾液中のミネラル成分(カルシウム)が
沈着すると歯石化してきます。
歯石化してしまうとブラッシングでは除去できなくなってきます。
歯石はさらなる歯石の付着を呼び起こし、どんどん大きくなることがあります。
唾液の性質や量が歯石の形成に関与すると言われており、一般に唾液の少ない
動物ほど歯石の形成が速いと思われます。

プラーク中の細菌はバイオフィルムといわれるシェルターの中に逃げ込んだ形となり、
抗生物質に対して非常に強力な対抗力をもちます。
歯周病に抗生物質を使っても残念ながら完治はしません。
細菌の逃げ場であるバイオフィルムを除去しなければダメなわけです。
バイオフィルムの除去をするには、歯石を機械的に除去したり、壊死組織を除去したり、洗浄したり、蒸散させたり、ダメになった歯を抜いたり、問題のある歯槽組織を掻爬したり・・・つまり歯科処置そのものを行わなければならないと言うことなのです。
腐ったどぶ川に、消毒剤だけ入れて川が清浄化しますか?
絶対に清浄化しません。どぶさらいをしないとダメなのです。
まさにその「どぶさらい」的な意味合いを含むのが歯周病歯科処置です。
(この理屈は外耳炎にも言えることです)
上記は非常に雑な言い回しですが、治らない歯周病に抗生物質ばかり投与されているケースを時折みます。どぶ川に消毒剤の理論で押し通しても治らないものは治りません。
超高齢犬、循環器基礎疾患等のやむをえない事情で歯科処置ができない患者さんはおられます。
しかし、「○○才だからもう麻酔は無理」といった単純発想では無く、きちんと術前検査を行って麻酔の適否を確認したうえで決めるべきかと思います。

プラーク中の細菌によって作り出される酸や酵素によってエナメル質が溶解するというのがいわゆる虫歯ですが、犬ではヒトのように虫歯にはならないとされています。
ただし、犬は虫歯に全くならないと言われていたのは「嘘」です。
なりにくいというだけです。

犬の唾液pHは人のそれに比べ高く、また唾液中にアミラーゼという酵素を含みません。
アミラーゼは炭水化物を糖に変換する酵素です。
犬の唾液はプラーク内の細菌叢が作り出す酸の緩衝能が高く、また炭水化物の糖変化が口腔内で起きにくいと考えられるため、齲蝕(虫歯)が少ないのではないかと思われます。



検査


口の中を確認し、必要に応じてレントゲン撮影を行います。
(下記は麻酔必須)
外歯瘻の場合、フィステルと問題歯根との接続性の確認(造影レントゲンや光反応性染色液による造影含む)を必要に応じて行います。
歯周ポケットの深さ(アタッチメントロス)を確認、歯肉の状態も確認します。(歯石を先に除去する事が多い)
抜歯必要性の検討→抜歯すべき歯の選定を総合的に判断(診断)します。


治療


軽い状況であると判断される場合、自宅でのブラッシングが推奨されます。
歯みがきをさせてくれない場合は、歯石除去専用食や口腔用のジェル等を
利用することになりますが、歯みがきほどの効果は得られないのが実情です。

ブラッシング等での処置では治癒がむずかしいと判断される場合では麻酔下にて
歯科機械を用いた処置が必要です。

実際の症例


歯石が下顎の歯に大量に付着し、つながっています。



口が痛い。唇が腫れてきたという事で来院されたワンちゃんです。
歯石が上唇にすれるため、上唇に潰瘍が発生しています。
このような症例では早めの処置が必要です。




写真は抜歯した直後に撮影したものです。
このわんちゃんは、鼻血がでるという症状で来院されました。
調べてみると、臼歯の歯根が化膿しており(根尖部膿瘍)、鼻腔に抜けていました。
抜歯してみますと、膿瘍形成部分は大きく空隙を形成し、さらに鼻腔に交通する瘻孔も
確認されました。
歯肉フラップによりこの抜歯窩を閉鎖し、一定期間の抗生剤投与を行いました。
結果、鼻血はおさまりました。
この例では口鼻瘻ですが、第四前臼歯の根尖部膿瘍から頬に穴が開き、膿がでるという症例はよくみます。



この子は右上顎の第四前臼歯に根尖部病巣があり、頬に瘻孔が出来て排膿していました。
抜歯により完治です。

目の下辺りの頬にジクジクした液体がいっつも付いてるワンちゃんは根尖部膿瘍かもしれません。注意が必要です。


歯石除去の実際


基本的に歯石除去は全身麻酔下で行います。
全身麻酔に先立って、必要な検査は済ませて置く必要があります。
麻酔の安全性を確保する意味で術前検査は重要です。

全身麻酔は、他の手術と同様に行います。
歯石除去だから簡便な麻酔という事にはなりません。
むしろ歯科処置は一般的な外科より長時間の麻酔が必要な場合が多いです。
麻酔、モニターについては「避妊去勢手術」のページを御覧下さい。

まず、麻酔下で全般的な口腔内のチェックを行います。
その上で歯科処置を始めます。
根尖部膿瘍などの症例や抜歯が必要と思われるレベルの場合、麻酔下でレントゲンをとります。

ちなみに、麻酔なしでの歯科処置はかなり無理がある行為です。
表面の歯石だけを割ってとっても肝心の歯周ポケット(正しくは歯肉縁下)の歯石がとれませんし、
歯の裏側の歯石も簡単には除去できません。
歯周病がひどく、下あごの骨が脆くなっている場合があります。
このような状況で、無麻酔で処置すると顎骨骨折を引き起こす恐れがあります。
無麻酔だと、通常処置を痛がるので動物が暴れたり、動いたりして歯石除去器具が
あらぬ所を突き刺したり引き裂いたりしかねません。
さらに言うなら、無理矢理麻酔なしで押さえつけられての歯石除去は
犬に「口を触られる事への恐怖」を植え付ける結果になります。
結果、その後の口腔ケアがどんどん困難なものへと変化していきます。
抜歯となると無麻酔では確実に不可能と言えます。
後述の超音波スケーリングやルートプレーニング、ポリッシング、レーザー処置も不可能です。
こういった理由から当院では無麻酔での歯科処置を推奨しておりません。



自宅でできるレベルのブラッシングやプラークコントロール、簡単な歯石除去について
否定するつもりはありません。
いわゆるPMTCを動物に無麻酔で施術することを推奨していないのです。

無麻酔での歯科処置は、日本小動物歯科研究会でも「行ってはいけない行為」として
規定されています。
リンク:日本小動物歯科研究会の見解
アメリカ獣医歯科学会では獣医師もしくは獣医師の指揮監督下での看護師の歯科処置以外の行為を全面禁止しています。法的罰則もあります。
ヨーロッパもこれに準ずる状況です。
現在、日本では一部のペットショップ、トリミングハウス等で無麻酔歯科処置が獣医師免許のない者によって行われている状況が散見されます。
今後、獣医師法上の違反事項として対応がなされていくものと思われます。

2024年6月11日の報道では、獣医師でないドッグカフェの女性経営者が無麻酔歯石除去を行っていたという事で、獣医師法に抵触する行為として京都府警に書類送検されました。
これを皮切りに、無免許で同様の処置を行っている施設は摘発の対象となっていくものと思われます。







超音波スケーラーを用いて歯石を破砕除去しています。
また、ルートプレーニング(歯肉と歯の隙間を滑らかにする)を行います。




ラバーカップ、歯科用ペーストを用いて、ポリッシングを行います。
この処置で、ざらついた歯面をツルツルに仕上げていきます。
このあと十分な洗浄を行い、歯石のカスや研磨剤などが残存しないようにします。
歯周に問題のある部分には薬剤の注入塗布も行います。


歯周ポケット(アタッチメントロス部)へのダイオードレーザー照射
出力調整したレーザー光を0.1秒刻みでパルス照射します。

この処置は、歯周ポケット内の細菌を殺菌し、歯肉の炎症面を蒸散します。
これにより、歯肉の引き締め効果、歯周病予防、口臭軽減が期待できます。
ヒトの歯科領域でも歯周病に同様のレーザーを利用する歯科医院も多く存在します。
ブルーレーザーと過酸化水素を併用しながら歯周内スケーリングする技術が近年ヒトの歯周病歯科で出てくる予定ですが、こちらのレーザーとは波長は異なります。ですが、歯周ポケット(アタッチメントロス部)内の細菌を殺滅処理するという意味において根本的な考え方は同じです。

歯周病の程度がひどいもの、根尖部膿瘍であったもの、抜歯を多数行う必要があったものなどでは、施術前後一定期間の薬剤投与を行います。

処置後、飼い主さんがブラッシングを全くやらなかった場合は歯周病再発、
歯石の付着は時間の問題になります。
歯科処置後はこれを機にブラッシングのクセ付けをお勧めしています。

ドライフードを与えてれば歯石がつきにくいというのは迷信です。
また、缶詰だと歯石がたくさんつくというのも迷信です。
どっちを与えても歯みがきの習慣がなければ歯石のつき方にさしたる差は
感じられません。


その他の歯科・口腔外科症例

第四前臼歯根尖部膿瘍の症例



左頬が腫れ上がり、穴が開いて排膿しています。
痛みで食欲も落ちていました。
まず、すべての歯をチェック、歯石除去等を先んじて行います。



抜歯しています。
第四前臼歯は非常に大きな3根歯(歯の根が3本ある)です。
歯根はくさび形になっており、抜歯は容易ではありません。
ダイヤモンドバーで歯を3分割し、歯根を1本ずつにバラけさせて抜歯するというテクニックを使います。
一本の歯を3本に改造してしてから抜くという作業です。
無理やり抜くと歯の根が歯槽に残ってしまい、後々問題になってきます。


抜歯創から生理的食塩水を入れてみると、頬より溢れ出てきました。



抜歯部位の顎の骨を切削し、なめらかに形成しています。
歯肉を縫合しますので、このあたりの作業をきちんとやってあげると
術後の痛みは少ないし、治りも良いのです。
この後十分洗浄し、歯肉縫合を行いました。
その後の経過は非常に良好です。

口鼻ろう症例

口鼻ろうとは、鼻腔と口腔が交通してしまっている状態を言います。
根尖性歯周炎の重度のものなど、膿の出口が鼻に抜けてしまう症例がいます。
くしゃみが増えた、鼻水に血が混ざる、鼻水が膿っぽい、臭いなどの症状は、
鼻炎でも、鼻腔腫瘍でも、歯科の病気でもありえます。
鑑別が必要です。
口の中の事ですので、動物の性格によっては口腔の術前診断が困難なこともあります。
痛い口や歯を麻酔無しで詳細にチェックできません。
全身麻酔下での歯のチェック、レントゲン等を必要とする事も多いといえます。
腫瘍であれば、麻酔下で生検を行う事も可能です。



右鼻腔から慢性かつ長期にわたって悪臭を伴う鼻血や膿が出ていた症例です。
鼻血だけでなく、高熱を出したり、食欲不振に陥ったりという症状を呈していました。
抗生物質による治療を受けられていましたが、いまいち良くならないとのことで来院されました。
術前検査でも、白血球数が異常増多し、C-CRP(犬炎症性タンパク質)も非常に高い数値を呈していました。
根尖部病巣による口鼻ろうが疑われたため、全身麻酔下で処置を行いました。


抜歯した後です。
右上顎に広範囲に渡る口鼻瘻が存在していました。
不良肉芽組織を除去し、洗浄を徹底しました。


上顎の歯槽骨を切削し、歯肉縁をトリミング(脱上皮)して縫合しました。
口鼻ろうでは、瘻孔部位を確実に縫合し、閉じる必要があります。
そうしなければ、食べたものが鼻腔に入ってしまいます。
このような症例は、歯科というより口腔外科という範疇になります。

たくさん抜歯して食事はとれますか?とよく質問されます。
大丈夫です。全抜歯症例でも食事の心配は通常ありません。
処置後4週程度はやわらかい食事が推奨されます。

猫の歯科処置 
高齢猫の外歯瘻


顔が腫れている、目もおかしい。痛がるという訴えで来院されました。

左頬の腫れ、眼結膜周囲の浮腫、第三眼瞼の浮腫、流涙が認められました。
検査の結果、歯根部が感染し膿の出口が頬にでき浮腫が生じていることが分かりました。
歯科処置が必須と判断しました。
高齢の猫ちゃんのため、術前検査をしっかりと行い万全の体制で麻酔に臨みました。


問題歯を抜歯した後です。
この後抜歯創の洗浄、薬剤注入、部分縫合を行いました。
猫は大きく口を開けさせ続けると問題が生じますので、施術の容易さを優先して開口器を使い続けることができません。
犬より細かく気を遣う必要があります。


続いて頬に小切開を加え排膿しました。


切開創の洗浄を行います。
頬は開放創で治癒させる事としました。


施術後、再診時のお顔です。
切開創の毛はこれからですが、
かわいいお顔に戻りました。





ちなみにこのワンちゃんは腫瘍性疾患です。
他院で歯を抜いたが口の調子が悪いという事で来院されました。
上顎右側の硬口蓋が腫瘍によって糜爛になっています。
こういった患者さんでは、歯科とは全く違った治療プロセスを踏む必要があります。

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