創傷のうるおい療法
「うるおい療法」・・あまり聞き慣れない言葉とは思いますが、創傷(キズ)に対する治療法で、細胞障害性のある消毒剤や外用薬を用いず、創傷表面を湿潤な状態に保つ被覆材を用いながら治癒を促進するという治療法です。
キズは痛くても消毒し、乾いたガーゼをあて、乾燥させてかさぶたが出来て治るものだという考え方がありました。しかし、これは創傷治癒の論理から考えて間違いといえます。
キズが治癒していく課程では線維芽細胞などの生きた細胞がキズを覆い、
さらに表皮の細胞が覆ってゆくという流れがあります。
ここで重要なのが「生きた細胞」という言葉です。キズが乾燥してしまいますと、乾燥表面で細胞は生きていられません。このような環境下では治癒のために必要な細胞は死んだ細胞や壊死物である痂皮(かさぶた)の下をゆっくり進んでいくしかありません。当然こういった状況では治癒は遅延します。
キズがうるおいを保った状態(湿潤状態)では治癒に必要な細胞は滑るように速やかにキズを覆い、また白血球系の細胞が自由にキズの表面を動き回り細菌感染から防御します。
さらに様々なサイトカイン、細胞成長因子などが失活すること無く作用できるため、湿潤状態は創傷治癒に非常に有用であると考えられます。
交通事故の猫ちゃんの症例
右前足に大きな皮膚欠損をともなうキズをおっています。事故後数日放浪したためキズは乾燥壊死し、部分的に感染を起こしていました。
壊死組織を取り除き、キズを新鮮な状態に戻している所です。
感染をコントロールしながら湿潤治療を行いました。
処置後3週間
ほぼ皮膚が完成してきています。
5週目
完治しました
事故のわんちゃんの例
肢端部に皮膚欠損を伴う創傷、爪周囲の損傷も激しい。
デブリードマン(壊死部や問題部を綺麗に整える手術)を行い、湿潤治療へ
2週目
かなり治癒してきました
3週目
ほぼ上皮化しました。
完治しました
湿潤療法では基本的に細胞に障害を与える消毒剤を継続的に用いることはありません。
消毒剤は細菌も殺しますが、治癒に必要な細胞まで殺してしまいます。
湿潤治療に光線治療を併用して治癒を促進する方法を当院では行っています。
※
写真及び本文の無断転載を禁じます